『GENZAICHI』ゲンザイチ-No.002

『GENZAICHI』ゲンザイチ-No.002 花野誠次さん
声優・俳優、ゲーム、音楽、動画、マンガ・イラスト、デザイン、IT、スポーツ、ビジネス、フィッシング、ヘアメイクなど。多岐にわたるカレッジの中で、各業界と連携した実践的なノウハウを学び、即戦力となるスキルを身につけられるのが総合学園ヒューマンアカデミー。学生たちはやがて社会でそれぞれの道を歩んでいくわけだが、具体的にはどんな職場でどんな仕事をしているのか? 卒業から10年以上を経たヒューマン出身者たちの“現在地”を、本人のインタビューと共に紹介する当企画。第2回となる今回は、一度社会人経験をした後、総合学園ヒューマンアカデミー大阪校に入学。なんとそのまま同校の講師になったという花野さんをクローズアップ。

 

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●プロフィール
花野 誠次さん  HANANO SEIJI
総合学園ヒューマンアカデミー大阪校
フィッシングカレッジ ルアービルダー専攻
2000年卒業
勤務先:総合学園ヒューマンアカデミー大阪校 フィッシングカレッジ
仕事内容:クラス担任、講師など
モットー:自分の手が届く範囲で全力を尽くす
座右の銘:気楽にいこうぜ
趣味:釣り、バイク

 

 

GENZAICHI取材日には同窓会メンバーも駆けつけ、リラックスモードで進行。お互い(編集人も含めて)バイク好きが高じて話が脱線することもしばしば。

 

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釣りという遊びをしっかりとした仕事に
コロナ禍でも成長する業界へ学生を導く

 

フィッシングカレッジの運営にも深く携わるクラス担任

 

 

GENZAICHIコロナ禍においての授業は前例のない事案でもあるため、教室内の人数制限やカリキュラムの進行など、苦心したという。

 

いまだにコロナウィルス蔓延の終息は見えないが、そんな状況下でもフィッシング業界は好調。日本釣用品工業会によると、釣り用品の国内出荷金額は2020年、2021年と2年続けて二桁台のプラス成長となっており、2022年も前年を超えると予想されている。キャンプをはじめ、サイクリングやゴルフなどと同様に、今伸びている業界なのだ。

 

 

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とはいえ、釣りの専門学校と聞くとどうだろう。ヒューマンアカデミー・フィッシングカレッジの入学前説明会で、学生たちの家族から「釣りで食べていけるのか?」という質問が出ることがある。確かに釣りといえば趣味やレジャーの類。それを学んで卒業したとしても、生活の糧になるのか不安に思う人も少なくないだろう。

 

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「そんな時には釣具の話をします。釣りをするにはまず釣具が必要で、それを作るメーカーがあって、さらにそれを仕入れる卸売業者や小売する釣具屋さんがある。そうしたところから求人実績があるんですよ、という説明が一般の方には分かりやすいんじゃないかなと思うからです」と花野さん。

 

 

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勤務先は総合学園ヒューマンアカデミー大阪校のフィッシングカレッジ。ルアーメイキングやルアーフィッシングなどの講義を行いつつ、クラス担任も受け持つ常任講師だ。知識や技術を教えるだけでなく、カリキュラムの考案や教材の選定、予算の管理、学生たちの進路相談や就職サポートまで担当している。入学前説明会などで保護者の質問・疑問に答えるのも仕事の一つ。そして何より、先ほどの言葉を裏切らないよう、学生たちを「食べていける」フィッシング業界に送り出すのが重要だと考えている。

 

 

 

GENZAICHI愛車CT110に備えているリヤボックスにはステッカーがいっぱい。中には卒業生が立ち上げたブランドロゴステッカーも貼っている。

 

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「卒業生から、仕事を頑張って結婚して子供も生まれました、といった報告を聞くのが一番嬉しい。釣りという趣味の世界できちんと働き、幸せな家庭を築いて暮らしているというのは素直に喜ばしいこと。これから業界を目指す後輩たちにとっても、大きな励みになると思います」。

 

歯科技工士から一転、ヒューマンで釣りを学ぶことに

 

 

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花野さんの経歴はやや異色。高校から歯科技工士の専門学校へ進み、国家試験を受けて技工士免許を取得。そして歯科技工士として就職した後、1年ほどで辞職。ヒューマンアカデミーに入り直して再び学生へ、という流れ。
「幼い頃からモノ作りが大好き。段ボールでクルマとかを沢山作って、自分のベッドに全部並べて。だからいつもベッド以外のところで寝ていましたね(笑)。そんなこともあって、職業も入れ歯やブリッジ、矯正装置などを作る歯科技工士を目指したんですが、いざ働いてみると、心から好きにはなれなかった。仕事内容に大きな不満はなかったのですが、やり甲斐を持って一生続けられるとは思えなかったんです」。
辞職後はアルバイトに精を出しながら自分に合った仕事を模索し、時間があれば趣味のバスフィッシングに出かける日々。ちなみに釣りを始めたのは、80年代の釣りブーム真っ只中だった小3の時から。小学校卒業時のアルバムには、「夢はバスプロ」と書くくらいハマっていたという。

 

 

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「そうしているうちに、雑誌でヒューマンアカデミーのことを知ったんです。大阪でフィッシングカレッジ開校とあって、第一期生を募集していた。モノ作りは相変わらず好きでしたし、もちろん釣りも大好きだった。だったら今度はルアーを作る仕事に挑戦しようと考えて、ルアービルダー専攻コースで学ぶことを決めました」。

 

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そして卒業後はルアーメーカーに勤務するつもりだったのだが、入学して2年目にまた転機。ルアービルダーの講師に「この学校に残って働いてみないか」と提案されたのだ。「家族からは『釣りの学校なんていつまであるか分からない』と反対されました。それでも、お世話になっていた先生から頼られたのは素直に嬉しかった。また父が短大で教員をやっていたということもあり、自分も先生をやってみようと決心したんです」。

 

 

第一期からカレッジに携わってきた古株としての責任感

 

 

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いつもお世話になっている河川敷では、帰りがけに片手に持てる程度のゴミ拾いを心掛ける。「いっぱいとることを日課にすると負担になるので、継続する意味でも気軽に取れる範囲にしています」。
最初はアシスタント講師からスタート。これまで人に何かを教えてきた経験はなかったものの、釣りが好き、モノ作りが好きという情熱を武器に、学生たちと正面から向き合った。勤務して3年目からはクラス担任を受け持つメイン講師に。

 

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「といっても社会人経験は少なく、学生たちとは年齢が近い。最初の頃は彼らと意見がぶつかり合ったり、喧嘩みたいになることもしょっちゅうでした。それでも周りの支えもあって、だんだん慣れていくことができました。ヒューマンアカデミーの良さは名前の通り、人間だと思います。講師や職員の方々はみんな面倒見が良く、純粋にいい人が多い。歯科技工士時代は人間関係の悩みも抱えていましたが、そういったストレスはまったく感じない職場でした」。

 

 

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既存のルアー(疑似餌)をエアブラシでアレンジ。学生は3Dプリンターで製作したルアーなどで噴き付けの授業も行っている。

 

講義では主にルアーメイキングを担当。木を削り出してルアーを作ったり、既存のマテリアルをカスタマイズして独自のモノに仕立てたり。そのメカニズムの解説や加工・ペインティングの技術はもちろん、ターゲットとなる魚たちの生態や習性といった「魚類学」の教鞭も取る。
また公認釣りインストラクターの資格を保有。フィッシングの実践的なテクニックだけでなく、ルール・マナー・環境保全などについても指導している。2000年に卒業・就職して、今年で早23年目。今では大阪校フィッシングカレッジの中核を担うベテラン講師となった。

 

 

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「正直、人付き合いはあまり得意じゃないし、性格は面倒くさがりでブレやすい。だから、『大阪校のフィッシングカレッジが存続する限り、自分はどんなにしんどくても頑張り続ける』とよく学生たちに話しているんです。あえて公言して逃げ場をなくしているわけですね(笑)。それが功を奏してか、これまで続けられることができました。第一期からカレッジの現場を見続けてきたのは今や私だけ。そんな自分にしかできないことがきっとあるはず、という勝手な使命感を抱いてやっています」。

 

就職ミスマッチを防ぐため、

学生の短所まで企業側に説明

 

 

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就職サポートもクラス担任の大事な仕事。学生たちの夢を叶えるため、できる限り彼らの志望する企業、職務に就けるよう、全力でバックアップを行う。20年以上もフィッシングカレッジの講師を続けてきた花野さんの腕の見せどころでもある。
「これまで沢山の学生たちを社会に送り出してきましたから、それだけコネクションがあるというのが私の強み。釣り関連企業を全網羅とまではいきませんが、業界では多くの卒業生たちが活躍している。おかげでフィッシングカレッジの知名度も高くなり、昔に比べると就職サポートもグッとやりやすくなりました。中には卒業生が採用担当をしているケースもありますから」。
ただ、いくら多くの企業と繋がりがあるといっても、それで就職がうまくいくとは限らない。学生たちの希望と適性、そして企業が求める人材像。これらが合致しないとダメなのだ。1年で歯科技工士を辞めることになった花野さんは、自身の経験からもミスマッチ回避のために神経を使っているという。

 

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「まずは企業の情報をしっかり集めること。強みだけでなく、弱点や問題点などもしっかり調査し、安心して働ける環境かどうか見極めるのが重要です。そして企業側にも、その学生のいいところだけでなく、私から見た短所も隠さずに伝えます。これは学生たちにも、そのご家族にも『私は全部いいますから』と明言していること。変に持ち上げて就職するよりは、ありのままの姿を見てもらうのが一番。時には学生たちに不利になることもありますが、正直にいった方が結果的にうまくいきます」。

 

 

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フィッシングカレッジ卒業生にはトーナメントアングラーとして活躍するプロも輩出。優勝を決めた瞬間のポスターなどが教室前に飾られている。

 

講師は続けつつ、いつか屋内釣り堀を運営するのが夢

 

 

 

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ある意味、趣味を仕事へと繋げた花野さんながら、もちろんプライベートでも釣りを続けている。近頃はルアーフィッシングに加えて、シンプルな延べ竿を使った小物釣りにハマっているという。

 

 

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GENZAICHI取材日は近所にある淀川にてフィッシング風景の撮影。撮影時の釣果を期待しつつも、なかなかこの日は難しく!? それでも終盤にゲット。「面目躍如(めんもくやくじょ)ですわ♪」とニンマリ。
「タナゴとかオイカワとか小型のフナとかですね。小さな魚は口も小さいから、実は釣るのが難しい。釣り人って普通は『こんな大きな魚を釣った』と自慢するものですけど、『小さい魚を釣った自慢』というのもあるんです。中にはそのために顕微鏡を覗きながら釣り針を研ぐって人もいるくらい。私はそこまではやりませんけど、わりとマニアックな方向に来てます」。

 

 

 

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以前はまったく興味のなかったバイクにも乗り始めた。逆輸入のホンダ・CT110というこちらもマニアックな1台。このためにわざわざ小型二輪免許を取得したほどで、休日にはCT110を駆って釣りに出かけることもしばしば。「高燃費で知られるカブの仲間にしてはあまり燃費が良くないし、古いのでいろいろ機嫌が悪い時もある。それでもこのレトロな見た目が気に入っています」。
また前述した通り、フィッシングカレッジ講師の仕事はずっと続けていくつもりだが、それとは別の夢も胸に秘めている。

 

 

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「天候に関係なく、いつでも誰でも気軽に遊べるような、屋内型の釣り堀の運営してみたい。私のモットーは、自分の手が届く範囲で全力を尽くして楽しむこと。趣味でも仕事でも、何もかも思い通りにできるわけじゃない。でも、自分が決めた中でならめいっぱい頑張れる。屋内釣り堀の夢も、まさにそんな感じです。いつか実現したいですね」

 

先輩から後輩へのアドバイス

 

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「ひと言でいうと『好きなら続けろ』です。長く業界に残っている人たちは、みんな諦めずに続けてきた人たちです。在学中も社会に出てからも、きっと辛いことや嫌になることもあるでしょう。そこで辞めるか続けるかという選択肢が出てきた時、本当に好きだと心から思えるなら『続ける』を選ぶことです。そうすればいつかきっと身になる。皆さんにはぜひ、好きなことを続けて夢を叶えて欲しいなと思います」。

 

Photo:上新庄写真センター
Text:佐藤 知範
Editorial:賀川 真弥